婚約破棄の損害賠償請求の可否について

 交際相手との間で婚約がなされている場合に、相手方からの一方的な要求により婚約を破棄されたとして、相手方に損害賠償が請求したいとご相談に来られる方もいます。

このような場合(ただし内縁関係にある場合を除きます)には、相手方に対して婚約破棄に基づく慰謝料請求や、婚約破棄により被った財産的損害(例えば、婚約指輪の購入費用等)を請求できるかが問題になりますが、今回はこの点について問題となることが多い争点につきご説明します。

 1.婚約の成立が認められるかについて

婚約破棄による損害賠償請求を行うにあたって、まず前提として法的に「婚約」があったと言い得るのかが問題となります。

「婚約」が成立していたか否かは、戸籍などでの公的な証明資料はないため、例えば当事者が、両親や職場の同僚などに婚約があったことを公表していたかや、当事者間で婚約指輪の購入・授受があったか、結婚式場への予約の申し入れなど挙式の準備をしていたか、当事者間で口頭やメールで結婚の申し入れやその承諾がなされていたかなどといった事情を総合的に考慮してその成否が判断されることになります。

この点、裁判例では、交際相手が何度か、相手方の両親や親族に会って食事をともにしていたり、当事者間のメールのやり取りで「結婚」という言葉のやり取りがされている事案でも、食事の回数は数回程度であり、当事者間のメールのやり取りの内容も、結婚もあり得ることをふまえたやり取りにとどまることなどを理由に、婚約が成立していたとは言えないとしている事案等もあります。

 このように、「婚約」の成立がそもそもなかったと裁判において認定されてしまった場合には、婚約破棄による慰謝料請求等はそもそも通らないということになります。

 2.婚約破棄の正当な理由があるか

次に、「婚約」が成立していると裁判所に認定されたとしても、婚約破棄をした側に破棄をするだけの正当な理由がある場合には損害賠償請求は認められないとされています。

例えば、婚約は成立したものの、その後、相手方からひどい暴言を浴びせられたり、暴力を受けた、不貞行為をされたなど婚約を解消するだけの正当な理由がある場合にはたとえ婚約を破棄したとしても賠償責任を負わない場合があります。

 3.婚約破棄による損害賠償の内容、範囲について

(1)慰謝料請求

婚約を一方的に破棄され、かつ破棄をした側に破棄をするだけの正当な理由がない場合には、破棄をされた側は相手方に婚約破棄により被った精神的苦痛についての慰謝料を請求することができます。

この精神的苦痛による慰謝料の相場としては、裁判例では数十万円から100万円程度とされることが多いように思われますが、特殊な事情があるような場合には200万円を超える事案もあります。

(2)財産的損害に基づく請求

また、婚約破棄に基づく損害賠償においては、例えば婚約指輪の購入費用や、挙式のための準備にかかった費用、新居の購入費用などが婚約破棄により無駄になったとして財産的損害を請求することも考えられます。

しかし、裁判例の傾向としては、婚約破棄に基づく財産的損害の認定については、婚約破棄と損害との因果関係(関連性)の有無や、損害額の評価(損害と言えるのかを含みます)という点から、請求が認められているケースは比較的少ないように思われます。

 裁判例では、新居の購入費用が無駄になったことによる財産上の損害についての主張に関しては、新居に婚約者と住むことはなくなったとしても、財産として新居の所有権を取得していることなどを理由に財産的損害が発生したとは即断できないなどとして、購入後にその不動産の価格が下落していたとしても損害額として認定していないケースもあり(神戸地裁判決平成14年10月22日)、全体的な裁判例の傾向にみても財産的損害に関する請求は認められにくい傾向にあるように思われます。もっとも、上記裁判例が財産的損害を全く考慮していないかというと、同裁判例の判示事項では「この点に関する財産的損害の賠償請求は理由がないというべきであり、上記のような事情は、慰謝料の算定にあたって斟酌するのが相当である」と述べており、慰謝料の算定要素としては財産的損害が考慮されていると解されるので、全く考慮されていないというわけでもありません。

 4.まとめ

このように、婚約破棄による損害賠償請求事案では、まず「婚約」の成否が問題となり、「婚約」が成立していた場合には、破棄をした側の正当理由があったのかが検討され、正当理由が認められない場合に、婚約破棄と関連があると認められる範囲での損害賠償請求が認められるという流れとなります。

また、損害として認定される金額については、上記3記載の通り、慰謝料に加えて財産的損害が認められるかについては、婚約破棄と損害との因果関係(関連性)の有無等について、裁判所に認定してもらうためには、一般的にはハードルが高いように思われます。

なお、相手方に一方的に非があるような場合に、婚約指輪を送った側が相手方からそれを返還してもらうことは可能と考えられます。

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